隔王板あり?なし?

2018/03/31

採蜜を行う群の仕立てには2通りあって、隔王板を使う方法と使わない方法があります。
隔王板とは働蜂は通れるけれど女王蜂は通れない格子状の板の事ですが、これがあると女王蜂はそれを通過できないので巣箱の上に設置して継箱を載せると巣箱が産卵圏に、継箱より上は全て貯蜜圏になるという算段になります。
一方で隔王板を使わないと巣箱+継箱の有効範囲は全て産卵圏に使用されることになりその外周辺が貯蜜圏となります。
ここで言う「有効範囲」とは女王蜂が産卵可能な有限領域で通常は球状になるのは言うまでもありません。

さて、当養蜂場では通常、隔王板を使う方法で群を仕立てていますが、’17年は試験的に隔王板を使わない群を2群仕立てて採蜜を行ってみて、この方式の有効性を実体験してみようとしました。
なお、隔王板を使用しない方法の蜜は通常とは別途の採蜜としており、またその蜜は自家消費用として非売で市販はしない蜜としています。

隔王板なし群は合計2群、女王蜂の系統は一つが採蜜優良系統(こちらをA群とする)で、もう一つが可もなく不可もなくのごく普通の系統(こちらをB群とする)を使用してみました。
実験期間は4月下旬からで、蜜柑の蜜、およびその後のハゼの蜜(つまり大量流蜜が期待できる時期)の期間(6月10日)までとし、採蜜にのみフォーカスすることとし、その後の建勢、ダニの影響、越冬への影響などは全く考慮・検討していません。

A群の方は他の隔王板を使用した通常強勢群と同時期に3段継箱となりました。
B群は少し遅れはしましたが通常普通群よりは伸びが良かったようでA群に遅れる事2週間で3段群になりました(これは伸びが早いとちょっと意外に思いました)。

概ねの前提条件は以上として。

やってみての結論は・・・。
はっきり言って隔王板を使わない採蜜方法のメリットは当養蜂場には無いことがわかりました。
その理由を以下に記してみます。

1.採蜜量
巣脾1枚当たりの採蜜量(単位収量)は全てが貯蜜圏となる隔王板方式に比べて圧倒的に少なくなりました。
巣脾1枚当たりの単位収量は隔王板式に比べて半分以下です。
巣箱を除く継箱2段、全ての巣脾の貯蜜を搾っても、隔王板式1段分より少ない採蜜量となってしまいました。
両端の巣脾以外は少なからずの蜂児圏があって、2段目中央部分では殆ど蜂児圏になります。搾る必要はないけど一応実験なので搾りましたけれど、もしかして隔王板なし方式で3段継箱は意味ないのかな?おまけに蜂児圏があるのでほぼ花粉の枠まで作られてしまうし。
兎に角隔王板式で継箱2段搾った方が遥かに多い採蜜量になります。
ただ、次に示す通り貯蜜スピードが速いので採蜜の回数を増やせばトータルで・・・どうだろう。
現在1回採蜜するスパン中に2回採蜜しても足りません。3回行えば現在より採蜜量は増える計算となりますが、、、ただでさえ採蜜は大変な重労働なのにそれを3回も廻すメリットはあるんでしょうか?

2.貯蜜スピード
産卵圏があって貯蜜圏が物理的、面積的に少ない関係もあって、(見た目の)貯蜜進行スピードは隔王板無しの方が圧倒的に早い。
産卵圏が近いからその周辺に適当にポイポイ蜜を貯める習性にも依存しているのでしょう。
移動養蜂など、その場に留まれる時期、時間が限られる場合や蜜源の流蜜期間が短い蜜種の場合にはこの方式は有効だと思えます。
ちょっと溜まればすぐに採蜜してしまえば、流蜜が少なくても採蜜できるだろうし、同じ場所で同じ種類の蜜が数度にわたって採蜜できる。
こういうフットワークの軽い採蜜は隔王板式ではできない。溜まるのに時間が掛る隔王板式では最悪搾れない場合もありますから、そういうリスクを最小にできるメリットはありますね。
加えて糖度も無駄に高まらないので、採蜜作業の「効率化」にはなると思います。
ただし「シャブ蜜」を大量に採っている可能性は高いですが・・・
youtubeの採蜜動画を見れば一目瞭然。隔王板なしの採蜜シーン、蜜蓋なんかほぼ無いし蜜口から流れ出る蜜の流速の速い事速い事(笑)。

3.蜂数の伸び、最終的な蜂数
蜂数の伸びは隔王板無しの方が若干早い感じ。最終的な蜂数ピークも隔王板無しの方が多くなる感じです。
これはやはり制限なく自由に産卵できることのメリットでしょう。
ただ、その差はあくまで「感じ」程度であって、方式の優位性なのかそれとも女王蜂の優劣なのか分からない程度でいわば少しの優良傾向はある誤差範疇というところ。あって1割程度早い、多いという感じでしょうか。
少なくとも圧倒的にというものではありません。

4.管理の手間
管理の手間とはこの場合、内検をどれだけ手抜きできるかという意味。つまり分封熱がより抑えられるならば内検を少し手抜きして楽ができるか否かということ。
当養蜂場では最低でも1週間に1度の内検を行っており、これをしないと確実に分封されます。
しかも内検はかなり丁寧に隅々まで見ないと王台を見逃してしまいますが、蜂数が多くなればなるほど時間をかけて内検する必要が生じます。蜂数&群数が多くなればこれが悩みの種となるから内検に手抜きができる手法なのであればこれほど魅力的なものはありません。この1点だけでも導入の価値アリなんですが・・・。

さて、、、王台の生成頻度・割合という観点でみた場合でも隔王板なしで極めてこれが少ないという感じは全くしませんでした。通常群とほぼ同じ。
つまり、1週間に1回の内検を2週間に1回にできる手法かと言えば、これは全く成り立たないし、王台もしっかり作られる。
しかも王台の場所がどこかに偏在するという訳でもなく巣箱、継箱全体に渡って作られており、基本隔王板より下の巣箱のみ集中的に見ればよい隔王板式より余計に手間と時間が掛る印象となりました。
もしかすると何か特別な手法(手抜きの方法)があるのかもしれないけれどそれは誰も口にしません。

結局、
単位収量半減どころか1/3強になって、
採蜜回数を3倍にしないと増量にならず、
かと言って内検の手間は変わらない、
最悪なのは蜂の幼虫が飛び出て体液が蜜に混ざる可能性が高まる(私はこれが絶対にダメなんです!味ですぐわかる!日本ミツバチのはちみつの味が私にとってダメなのはこれが理由なのです)、
それは頻度は少ないながらも放射式の遠心分離機であっても同じ、
隔王板なし採蜜法にこれと言ったメリットは何にも感じない結果となりました。

敢えて取り上げるなら
蜜蓋殆どない内に搾れるから蜜蓋切る手間は断然少なくて済む。
巣箱移動させるのに不安定な隔王板を挟んでおくのはリスクがある。
流蜜期間が極めて短い蜜種の場合はあっという間に採蜜可能貯蜜になるこの手法は有効。

なんでもそうですが、それが良いと信じる人、その方が都合良い人、そういった人がその方法でやればよいだけ。
プロは隔王板使わない、隔王板使うのは趣味養蜂だとか豪語する ”自称” プロの人がいますが「井の中の蛙大海を知らず」。

そもそも海外の大規模養蜂家は隔王板使ってますよ。知っていましたか?
きっとあれは大規模素人さんなんだね(笑)。

ここでおまけで理論的検証をしてみましょう。

女王蜂の産卵可能数は一日あたり2,000とも3,000とも言われているがひとまずここでは2,000ということにしておきましょう。

巣箱に入れてある巣脾と言われる巣枠には片面で約3,200の巣房があるから両面、つまり巣脾1枚で6,400の巣房があることになります。

巣箱1個に入る巣脾は最大10枚(日本では三角コマなどという意味不明のものを使う関係上ここでは最大9枚という説もあるが、当養蜂場では三角コマは使用しないので10枚で計算します)。
そうすると10×6,400=64,000個の巣房があるという計算になりますね。

さて、働蜂は産卵されてから21日で羽化するので、一日2,000個の産卵をする女王の場合、21×2,000=42,000個の巣房

が最大の産卵圏ということになります。
これは全巣房の約66%にあたるものです。
わかりやすく言うなら全面巣脾6.5枚分がMAXということ。
残りは蜜と花粉、あるいは空き部屋となります。

仮に隔王板があったとしても計算上は産卵圏が圧迫されることは(計算上は)ないのです。

ただ、産卵圏が球状になる自然状態からするとある一定程度の制限を蜂たちが感じているのは間違いないと思います。
それが蜂数の伸び、最終的な蜂数に1割程度の違いが感じられた要因だと思う。
逆に言えば、隔王板使わない方法でもその程度の違いしか出ないと言う事にもなりますが。

計算上でも実験結果においても隔王板無しでの群仕立ては移動養蜂家、若しくは最近の衛生管理概念上どうかと思う屋外採蜜以外でのメリットは殆どないというのが今の所の結論になります。

自分達がやりやすい方法でやればよい。。。そういうことなんじゃないでしょうかね。