HACCP 現場採蜜vs屋内採蜜

蜂蜜を巣枠から抜き取る作業、すなわち採蜜の作業をどこでやるのかご存知の消費者の方は少ないかと思います。採蜜作業の場所は大きく分けて
1.巣箱のある場所(現場)へ採蜜道具一式を持ち込み、そのまま屋外で行う
2.巣枠を作業場へ持ち帰って屋内で採蜜作業を行う
この2種類があります。
日本の養蜂業者の場合、移動養蜂と言うのが一般的であったこともあり、1の現場採蜜の形態を取っている業者が多いように思います。

巣枠を現地から持ち帰って屋内で採蜜作業を行う2の形態では採蜜の用具一式は屋内と言うこともあり衛生管理は比較的やり易いものでありますが、現地でそのまま行う場合はなかなかそうはいきません。

Youtubeに現地採蜜している動画がいくつも上がっていますが、お世辞にも衛生管理がしっかりしていると感じるものは正直一つもありません。というか問題のあるシーンが写っているケースが殆どに思います。

ひどいものになると分離機から蜜を取り出して受けるバケツは当然地べたに直接おいているわけですが、その底に土(泥)がついている状態で蜜漉し器に移し替えているシーンが写っていたりします。当然その際に手(手袋)にはバケツの底の泥が付くわけですが、そのまま蜜蓋を切ったり、あるいは遠心分離機の中に手を突っ込んで何かしているシーンも写ってました。もう無茶苦茶です。

しかしなぜこういった現場採蜜が普通になっているかというと、それは巣箱を置いている現場の近くに作業建屋を置くことは現実的には難しいからです。

大規模な養蜂業者になればなるほど、大量の巣箱を方々に分散して設置していますから建屋が近い場合は良いですがちょっと遠くなるとイチイチ作業用の建屋に持ち帰って分離作業を行うなんてことは実質的にできなくなります。さらに移動養蜂となれば巣箱を花に合わせて移動させていくわけですから移動先それぞれに採蜜建屋を用意するのは不可能でしょう。

海外の養蜂業者は規模が桁違いですが、それでも各所から蜜枠を大量に建屋に運び込んでこれまた大規模な採蜜装置(システムと呼んだ方が良いくらい)で一気に採蜜しています。

そもそも、現地採蜜を基本としている日本式の養蜂スタイルだからこそ、隔王板を使わない採蜜スタイルがプロのスタイルだ・・・なんてとんでも発言が出るんだと思います。
屋内に蜜枠を持ち帰るスタイルだと蜜枠に幼虫や卵が有ったら掛かる時間と場合によっては死んでしまいますからそういった蜂児付き蜜枠を作ること自体があり得ないことになります。
蜜枠を持ち帰るスタイルでは育児箱と採蜜箱の間を隔王板で仕切って蜜枠に蜂児が残らない様にすることが前提になるわけです。

とは言っても趣味的養蜂含めて小規模な養蜂者でも現地採蜜しているケースが多い様に思います。何故なら採蜜を屋内で行うにはそれ相応の広さの建屋が必要だからです。

だから日本の場合は殆どのケースで屋外採蜜が行われていると思っておいた方が良いと思います。

実は令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者はHACCPに沿った衛生管理に取り組む必要があります。
養蜂業界でもHACCPに対応したチェックシートなどを用意している様ですが、この屋外採蜜にまつわる衛生管理上の問題を指摘するつもりはないようです。

当養蜂場ではこれを契機に採蜜場所を(完全)屋内にするため昨年新たに採蜜用の建屋を建てました。それまでは一応テント(タープ)を立てて遮光ネットで周りを囲い、衛生管理に十分配慮しながらその中で採蜜していましたがそれでも十分ではないと考え新たに建屋を建てたわけです。

別にHACCPに沿おうが沿うまいが人の口に入る食品である蜂蜜の衛生管理には十二分な注意と配慮が必要と思うのですがYoutubeの採蜜動画を見るにつけどうにも気になってしまいます。そういった動画も他山の石としながら小さなことまで衛生管理に気を使って採蜜から販売まで行っていきたいと思っています。それが養蜂の「いろは」だと思っています。